最近出版された、詩人まど・みちおさんの詩集から、
『生まれて来た時』という詩がとてもいいなと思ったので、
そのままご紹介させていただきます。
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生まれて来た時
あるいてもあるいても日向だったの。
海鳴がしているようだったの。
道の両側から、
山のてっぺんから、
日の丸が見送っていたの。
お船が待っているような気がして、
足がひとりで急いじゃったの。
ホホケタンポポは指の先から、
フルン フルン 飛んでいって
もうお母さまには茎だけしかあげられないと思ったの。
いそいでもいそいでも日向だったの。
――ね、お母さま。
僕、あの時生まれて来たんでしょう。
☆
感動してしまいました。
なんという温かくやさしい感覚。そして、
生まれて来たことへの賛歌なのだな、と。
「ホホケタンポポ」 というのが気になって、調べてみると、
種田山頭火の詩にありました。
この旅死の旅であらうほほけたんぽぽ
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これを知り、
文字通り「死の旅」の果てに死んだ山頭火への
オマージュというのか、返答の詩だったのではないか、
と考えたりもしています。
死に行く者と、生まれ来る者という対比でもあり、
死に行く者と、生まれ来る者という対比でもあり、
勝手な想像で申し訳ないですが、まどさんにも、山頭火に
同感するようなところがあったのかもしれない。
でも、そうではないのだという主張であり
救いであったのではないかな、と。
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まどさんは、この11月で満103歳、96歳の奥様と
仲睦まじく握手をしている写真が、ご子息でこの詩集編集者
石田京さんの 、「見知らぬおじさんは優しい人だった」
というあとがき(2012年8月の写真撮影も石田京さん)に、
添えられていたのですが、これに、まどさんの生命を賛美
するような詩が、未来への希望や予感として結実したような、
あっぱれな小気味よさ・痛快さを感じてしまうのは
私だけでしょうか。

2 件のコメント:
「さびしかったら」「生きるのがつらくなってしまったら」「世の中に不条理を感じたら」「やさしい気持ちになりたかったら」など心のシーン10章に沿った、まどさんの詩集。詩を選んだのは、まどさんがもっとも信頼を寄せる編集者の市河紀子さんです。小児科医の細谷亮太さん、小説家の堀江敏幸さん、詩人の谷川俊太郎さんほかのエッセイが興味深く、また、まどさんの抽象画も味わい深いです(詩の挿図もすべてまどさん)。言葉に真剣に向き合ってこられたまどさんのこれまでの人生について市河さんがまとめています。まっすぐに生きてこられたまどさんだからこそ納得できる企画ではないでしょうか。じわーっとしみてくる詩集、折に触れ読んでいます。たいせつにたいせつにしたい本です。
本日は選挙。つぎの詩がこころにしみました。
『どうしてだろうと』(「世の中に不条理を感じたら」)
どうしてだろうと
おもうことがある
なんまん なんおくねん
こんなに すきとおる
ひのひかりの なかに いきてきて
こんなに すきとおる
くうきを すいつづけてきて
こんなに すきとおる
みずを のみつづけてきて
わたしたちは
そして わたしたちの することは
どうして
すきとおっては こないのだろうと...
この詩集の全体像がよくわかるような補足をありがとうございます。まどさんの抽象画について、私も一言書こうかなと思いながら触れませんでしたが、おっしゃるように味わい深いものがありますね。私もたいせつにしたい一冊です。まどさんの詩「ランタナの蘺」についての記事もありますので、よろしければお読み下さい。「すきとおって」くるかこないかわかりませんが、そう希望をこめながら私は前日に投票を済ませてまいりました。コメントありがとうございました。
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